昭和4年に発表されるやベストセラーとなった小林多喜二のプロレタリア文学の名作『蟹工船』が、昨年「リバイバル・ヒット」した。厳しい雇用環境に翻弄され、閉塞感に包まれた若者たちが、自らの不遇を『蟹工船』の労働者と重ね合わせて手に取ったのだという。現代風に脚色を施された映画も、松田龍平の主演で製作された。
『蟹工船』の80年ぶりのブーム
と趣きは異なるが、同じく「思わぬベストセラー現象」として、『思考の整理学』(ちくま文庫)が最近話題になっている。
お茶の水女子大学名誉教授の外山滋比古氏が昭和61年に上梓したこの本は、出版時はそれほど評判にもならず、以後も細々と売れるだけ。かろうじて絶版を免れていたのが、発刊20年を経た2年前頃に突然火がつく。盛岡のさわや書店という本屋で、「もっと若い時に読んでいれば...。そう思わずにはいられませんでした」というポップ広告を付してこの『思考の整理学』を平置きしたところ、おもしろいように売れ始めたという。東京でも同じことをしたらやはり売れ出し、ついに全国的なベストセラーに結びついた。出版界では稀有なケースのようだ。
発想法や情報整理のノウハウを説いた実践書としては、『知的生産の技術』(梅棹忠夫・昭和44年・岩波新書)が今なお名著として知られるが、『思考の整理学』の遅れての脚光も、真に有用な知識獲得やアイデア創出の方法は、コンピュータ全盛の現代においてもさびれることはないということを示している。
ところで過去のベストセラー書を顧みてみることで、当時の世相や社会状況がのぞけて興味深い。幼かった頃、我が家にもあった昭和のベストセラー本を思い起してみた。
昭和36年のNO1ベストセラー『英語に強くなる本』(岩田一男・光文社カッパブックス)。英会話習得を願う日本人はその昔から途切れることがないが、
戦後日本がサンフランシスコ講和条約(昭和26年)を経て独立国となり、経済復興の足がかりを固めてビジネスマンの海外進出も増え、庶民の英語ブームも高まりを見せた。同書は、外国で迷子になって「ここはどこですか?」と道を尋ねるとき、英語で何といえばよいかというクイズから始まっていた(はず)。答えは"Where am I?"。文法よりも英語的発想の重要性をやさしく解説した内容が、当時としては斬新で初学者に受けたのだろう。オリンピック開催、海外旅行自由解禁(昭和39年)、JALパックの開始(昭和40年)と日本(人)の国際化は続き、英語学習ブームに拍車がかかり、『英語に強くなる本』も100万部を超えてロングセラーとなった。
昭和45年、『冠婚葬祭入門』(光文社カッパブックス)が売れた。著者の塩月弥栄子氏は華道・茶道家。知っているようで知らない冠婚葬祭の基本的マナーや豆知識が紹介されるとともに、高度成長に浮かれて、失われ始めた古き良き日本人の礼節を呼び覚ます内容でもあったと記憶する。
高齢社会の進展とともに、増え続ける認知症患者。現在、国内における患者数は約200万人に達するという。認知症は程度にもよるが、他の疾病以上に、それを介護する家族の苦労が大きい。テレビや新聞でも、認知症介護の壮絶な様子がしばしば取り上げられている昨今だが、痴呆老人とそれを取り巻く家族の苦悩を描いた先駆け的小説として、有吉佐和子の『恍惚の人』が思い出される。昭和47年のベストセラーだが、それから40年近くがたち、「認知症の認知」が進展し、社会的な対応も洗練されてきているのが喜ばしい。
Reference:http://www.1book.co.jp/cat_84.html
Posted: 24 September 2009
昭和のベストセラー
- 昭和3年
『赤穂浪士』(大佛次郎・改造社) - 昭和4年
『蟹工船』(小林多喜二・戦旗社) - 昭和5年
『放浪記』(林芙美子・改造社) - 昭和5年
『生命の実相』(谷口雅春・生長の家) - 昭和6年
『一粒の麦 』(賀川豊彦・講談社) - 昭和7年
『のらくろ上等兵』(田河水泡・講談社) - 昭和7年
『夜明け前・第一部』(島崎藤村・新潮社) - 昭和8年
『春琴抄』(谷崎潤一郎・創元社) - 昭和9年
『女の一生』(山本有三・中央公論社) - 昭和10年
『人生劇場』(尾崎士郎・竹村書店) - 昭和10年
『蒼氓』(石川達三・改造社) - 昭和11年
『宮本武蔵』(吉川英治・講談社) - 昭和11年
『怪人二十面相』(江戸川乱歩・講談社) - 昭和11年
『真実一路』(山本有三・新潮社) - 昭和12年
『大地』(パアル・バック・第一書房) - 昭和12年
『雪国』(川端康成・創元社) - 昭和13年
『麦と兵隊』(火野葦平・改造社) - 昭和13年
『風と共に去りぬ』(M・ミッチェル・三笠書房) - 昭和14年
『日本二千六百年史』(大川周明・第一書房) - 昭和15年
『我が闘争』(ヒトラー・第一書房) - 昭和16年
『智恵子抄』(高村光太郎・竜星閣) - 昭和16年
『人生論ノート』(三木 清・創元社) - 昭和16年
『次郎物語』(下村湖人・小山書店) - 昭和17年
『姿三四郎』(富田常雄・錦城出版社) - 昭和18年
『米百俵』(山本有三・新潮社) - 昭和19年
『宿敵米英ヲ撃テ』(松村秀逸・漫画社) - 昭和19年
『陸軍 』(火野 葦平・朝日新聞社) - 昭和20年
『日米曾話手帳』(-・科学教材社) - 昭和21年
『愛情はふる星のごとく』(尾崎秀実・世界評論社) - 昭和21年
『嘔吐』(J.P.サルトル・青磁社) - 昭和22年
『旋風二十年』(森 正蔵・鱒書房) - 昭和23年
『この子を残して』(永井 隆・講談社) - 昭和23年
『細雪』(谷崎潤一郎・中央公論社) - 昭和23年
『長崎の鐘』(永井 隆・日比谷出版社) - 昭和24年
『親鸞』(吉川英治・世界社) - 昭和25年
『チャタレー夫人の恋人』(D.H.ローレンス・小山書店) - 昭和25年
『きけわだつみのこえ』(日本戦没学生手記編集委員会・東大協同組合出版部) - 昭和26年
『ものの見方について』(笠 信太郎・河出書房) - 昭和26年
『武蔵野夫人』(大岡昇平・講談社) - 昭和26年
『山びこ学校』(無着成恭・青銅社) - 昭和27年
『ニッポン日記』(M.ゲイン・筑摩書房) - 昭和28年
『君の名は』(菊田一夫・宝文館) - 昭和28年
『第二の性』(S.ボーヴォワール・新潮社) - 昭和29年
『潮騒』(三島由紀夫・新潮社) - 昭和30年
『広辞苑』(新村出編・岩波書店) - 昭和30年
『あすなろ物語』(井上 靖・新潮社) - 昭和31年
『太陽の季節』(石原慎太郎・新潮社) - 昭和31年
『モゴール族探検記』(梅棹忠夫・岩波書店) - 昭和31年
『大菩薩峠』(中里介山・河出書房) - 昭和32年
『楢山節考』(深沢七郎・中央公論社) - 昭和32年
『暖簾』(山崎豊子・東京創元社) - 昭和33年
『人間の条件』(五味川純平・三一書房) - 昭和33年
『氷壁』(井上 靖・新潮社) - 昭和33年
『陽のあたる坂道』(石坂洋次郎・講談社) - 昭和34年
『にあんちゃん』(安本末子・光文社) - 昭和34年
『論文の書き方』(清水幾太郎・岩波書店) - 昭和34年
『敦煌』(井上 靖・講談社) - 昭和35年
『性生活の知恵』(謝 国権・池田書店) - 昭和35年
『どくとるマンボウ航海記』(北 杜夫・中央公論社) - 昭和35年
『黒い樹海』(松本清張・講談社) - 昭和36年
『英語に強くなる本』(岩田一男・光文社) - 昭和36年
『砂の器』(松本清張・光文社) - 昭和36年
『何でも見てやろう』(小田 実・河出書房新社) - 昭和37年
『徳川家康』(山岡荘八・講談社) - 昭和38年
『物の見方考え方』(松下幸之助・実業之日本社) - 昭和38年
『永遠のエルザ』(J.アダムソン・文藝春秋新社) - 昭和38年
『太平洋ひとりぼっち』(堀江謙一・文藝春秋新社) - 昭和39年
『愛と死をみつめて』(河野 実・大島みち子・大和書房) - 昭和39年
『おれについてこい』(大松博文・講談社) - 昭和39年
『アンネの日記』(A.フランク・文藝春秋新社) - 昭和40年
『人間革命(1)』(池田大作・聖教新聞社) - 昭和40年
『白い巨塔』(山崎豊子・新潮社) - 昭和40年
『氷点』(三浦綾子・朝日新聞社) - 昭和41年
『人間への復帰』(庭野日敬・佼成出版社) - 昭和41年
『山本五十六』(阿川弘之・新潮社) - 昭和42年
『頭の体操』(多湖 輝・光文社) - 昭和43年
『民法入門』(佐賀 潜・光文社) - 昭和43年
『竜馬がゆく』(司馬遼太郎・文藝春秋) - 昭和43年
『どくとるマンボウ青春記』(北 杜夫・中央公論社) - 昭和44年
『天と地と』(海音寺潮五郎・朝日新聞社) - 昭和44年
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司 薫・中央公論社) - 昭和44年
『知的生産の技術』(梅棹忠夫・岩波書店) - 昭和45年
『日本万国博公式ガイドマップ』(講談社編・日本万国博覧会協会) - 昭和45年
『冠婚葬祭入門』(塩月弥栄子・光文社) - 昭和45年
『創価学会を斬る』(藤原弘達・日新報道出版部) - 昭和45年
『スパルタ教育』(石原慎太郎・光文社) - 昭和46年
『日本人とユダヤ人』(l.ベンダサン・山本書店) - 昭和46年
『HOW TO SEX』(奈良林 祥・ベストセラーズ) - 昭和47年
『恍惚の人』(有吉佐和子・新潮社) - 昭和47年
『坂の上の雲』(司馬遼太郎・文藝春秋) - 昭和48年
『日本沈没』(小松左京・光文社) - 昭和48年
『ぐうたら人間学』(遠藤周作・講談社) - 昭和48年
『太陽への挑戦』(糸山英太郎・双葉社) - 昭和49年
『かもめのジョナサン』(リチャード・バック・新潮社) - 昭和49年
『ノストラダムスの大予言』(五島 勉・祥伝社) - 昭和49年
『邪馬台国の秘密』(高木彬光・光文社) - 昭和50年
『複合汚染』(有吉佐和子・新潮社) - 昭和50年
『崩れゆく日本をどう救うか』(松下幸之助・PHP研究所) - 昭和50年
『親の顔が見たい』(川上源太郎・ごま書房) - 昭和51年
『限りなく透明に近いブルー』(村上 龍・講談社) - 昭和51年
『青春の門 墜落篇(上)』(五木寛之・講談社) - 昭和51年
『毎日が日曜日』(城山三郎・新潮社) - 昭和52年
『火宅の人』(壇 一雄・新潮社) - 昭和52年
『間違いだらけのクルマ選び』(徳大寺有恒・草思社) - 昭和52年
『八甲田山死の彷徨』(新田次郎・新潮社) - 昭和52年
『人間の証明』(森村誠一・光文社) - 昭和52年
『エーゲ海に捧ぐ』(池田満寿夫・角川書店) - 昭和52年
『ルーツ』(A.ヘイリー・社会思想社) - 昭和53年
『不確実性の時代』(J.K.ガルブレイス・TBSブリタニカ) - 昭和53年
『ライフワークの見つけ方』(井上富雄・主婦と生活社) - 昭和54年
『天中殺入門』(和泉宗章・青春出版社) - 昭和54年
『四季・奈津子』(五木寛之・集英社) - 昭和54年
『ジャパン アズ ナンバーワン』(E.F.ヴォーゲル・TBSブリタニカ) - 昭和55年
『蒼い時』(山口百恵・集英社) - 昭和55年
『項羽と劉邦』(司馬遼太郎・新潮社) - 昭和55年
『公文式数学教室』(公文 公・公文数学研究センター) - 昭和56年
『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子・講談社) - 昭和56年
『人間万事塞翁が丙午』(青島幸男・新潮社) - 昭和56年
『なんとなくクリスタル』(田中康夫・河出書房新社) - 昭和57年
『気くばりのすすめ』(鈴木健二・講談社) - 昭和57年
『積木くずし』(穂積隆信・桐原書店) - 昭和58年
『佐川君からの手紙』(唐 十郎・河出書房新社) - 昭和58年
『意識革命のすすめ』(広岡達朗・講談社) - 昭和59年
『第四の核』(F.フォーサイス・角川書店) - 昭和60年
『女の器量はことばしだい』(広瀬久美子・リヨン社) - 昭和61年
『知価革命』(堺屋太一・PHP研究所) - 昭和62年
『サラダ記念日』(俵 万智・河出書房新社) - 昭和62年
『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(キングスレイ・ウォード・新潮社) - 昭和62年
『ノルウェイの森』(村上春樹・講談社) - 昭和63年
『ダンス・ダンス・ダンス』(村上春樹・講談社) - 昭和63年
『ゲームの達人』(シドニィ・シェルダン・アカデミー出版)


